“友達じゃない”アイドル2人、お線香を上げに北海道へ。どこか清々しい「終わり」を描く漫画に「涙滲みました」の声【作者に聞く】

東京ウォーカー(全国版)

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それなりに知られてはいるけれど、超売れっ子というわけでもないアイドルユニット。仕事仲間でも友達ではない2人は、ひょんなことからとあるファンの訃報を知り、お線香をあげようと彼の実家に赴こうとするが――。ナカマチさん( @nakamachi_keiji )さんのオリジナル漫画「波打ち際のラストソング」が、Twitter上で7500件以上の「いいね」とともに「染み入る作品」「涙滲みました」と感動の声が寄せられている。

友達ではないアイドル2人が、亡くなったファンにお線香を上げる旅へ。心にじんわり届くロードムービーに反響ナカマチ(@nakamachi_keiji)

北海道を舞台にしたロードムービーのような趣のある同作。作者のナカマチさんに、作品制作の裏側を取材した。

ファンの訃報からはじまった、解散間近のアイドル2人の北海道行きがじんわり響く

エリカとナツミの2人からなる、結成10年のアイドルユニット「リリカル・サマー」。アイドル界隈ではそれなりに知られているユニットだったが、人気のピークを過ぎ30歳が近づいていることもあり、内々では解散が決まっていた。

「波打ち際のラストソング」04ナカマチ(@nakamachi_keiji)

そんな折、2人は接近イベントでとあるファンから、最古参ファンの男性「たま子さん」が亡くなったと知らされる。

「波打ち際のラストソング」06ナカマチ(@nakamachi_keiji)


同じユニットの仲間だが、個人としてはそりが合わず、決して友人とは言えないエリカとナツミ。だが2人は思い付きと成り行きから、たま子さんの実家へお線香を上げにいこうと決める。

「波打ち際のラストソング」16ナカマチ(@nakamachi_keiji)


自身らのファンを伝手に聞き出したたま子さんの実家は、関東から遠く離れた北海道。ひょんなことからはじまった2人きりの北海道行きの中で、本名は知らずとも顔なじみのファン、たま子さんの地元の幼なじみ、そしてたま子さんの母と、さまざまな人に巡り合っていくという物語だ。

「波打ち際のラストソング」20ナカマチ(@nakamachi_keiji)


「過ぎていく時間の儚さ」そこで暮らす人だからこそ描ける“北海道”

お互いの絆は深いファンたち、幼なじみであっても友人ではないという男性、そしてエリカとナツミ。一言では言い表せない関係性が描かれており、1人のファンの死とリリカル・サマーというアイドルの終わりが、どこか重なり合うように感じられて深い余韻が残る作品。読者からは「空気感がたまらない」「感情移入し過ぎてボロボロ泣いてます」「いい話だった」とさまざまな反響が。劇中で描かれる小樽や蘭島といった北海道の情景への声も、数多く寄せられた。

「波打ち際のラストソング」25ナカマチ(@nakamachi_keiji)


作者のナカマチさんは、実際に北海道に住み、本作以外にも北海道を舞台にした漫画やイラストを発表している。そんなナカマチさんに「波打ち際のラストソング」にこめた思いをうかがった。

――本作を描いたきっかけを教えてください。

「ここ数年、自分の周りで若くして亡くなる人がいたり、コロナ禍などで有名人が亡くなったりすることがあり、『終わりは必ず来るし、それが何の前触れもなく突然起こることもある』と感じたのがそもそものきっかけです。アイドルとファンとしたのは、距離感がちょうどよく客観的に描けると思ったためです」

――そうした「終わり」を感じさせながらどこか清々しい、ロードムービーといった趣のある作品です。本作を描くうえで特にこだわったポイントや、挑戦したことはありますか?

「エモーショナルにしすぎず、客観的に描くことを心がけました。死は物語を作るうえでもっとも書きやすい題材のひとつだと思っているので、あえて距離を取りました。漫画は人物の心情にどこまでも寄れるけど、今回は客観的に描くためにカメラを意識して外側から描くようにしました。清々しいと感じていただけたとしたら、そこが上手くいったのかもしれません」

――エリカとナツミの距離感をはじめ、本名を知らなくても繋がっているファン同士、「友達ではない」幼なじみと、一言で言い切れない関係性が描かれているのも印象的です。

「主人公2人の距離感については、さまざまな『終わり』を前にして離れていた2人の距離が、一瞬だけぎゅっと近づくさまを描きたかったからです。たま子さんを取り巻く関係性については、たま子さんの死から少し距離を置きたかったというのがひとつ。
また、たま子さんはこの物語の要なのにほとんど登場しないので、いろいろな視点から語ることで彼の人生に重みを付けたかったという理由もあります」

――本作は小樽から蘭島へと、夏を前にした北海道が描かれています。ロケーションや時期はどのように決められましたか?

「終着地として海を選んだのは、波打ち際がひとつの“境界”だと思っているからです。それは本州と北海道の境目だったり、あるいは人が生きる世界とそうでない世界を分かつものであったり。

蘭島という場所にしたのは、蘭島駅から海までの距離が物語を描くうえでちょうどよかったのと、散歩でたまに訪れていて、以前からここを描きたいと思っていたからです。季節を夏の前にしたのは、シーズンオフの海が好きだからというのと、北海道で一番よい季節だと個人的に思っているからです。北海道の春から夏はほかの地域に比べてとても短く、過ぎていく時間の儚さのようなものを表現するのに適していると個人的に感じています」

「波打ち際のラストソング」28ナカマチ(@nakamachi_keiji)


――ナカマチさんは北海道にお住まいとうかがいました。イラストや漫画の中で「北海道」を描くのはどんな思いがあるのでしょうか?

「北海道はその歴史上、ほかの地域と比較して文化的な厚みがなく、また物理的距離もあることから、ほかの文化に触れられる機会がとても少ないです。そのことにずっと劣等感や嫉妬のような感情を持っていました。一方で、北海道が人気の観光地であるように、外から見て北海道にしかない魅力は確実にあります。だったら、北海道に住んでいる人にしか描けないものがあるのではないかと思い至り、北海道の漫画やイラストを描くようになりました」

「波打ち際のラストソング」29ナカマチ(@nakamachi_keiji)


――そんな本作にはSNS上で大きな反響が集まりました。反響への思いや、今後の創作活動の展望について教えてください。

「こんなに反響があるとは思っていなかったのでかなり驚きました。SNS等でたくさん感想をいただき、自分の描いた漫画でこんなにも多くの人がいろいろなことを考えたり感じたりしてくださっていて、本当に描いてよかったです。今後も北海道を舞台とした漫画をいろいろ描いていけたらと思います」

取材協力:ナカマチ(@nakamachi_keiji)

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