コーヒーで旅する日本/九州編|亡き息子の遺志を継ぎ、事故・事件の被害者をコーヒーを通して支援し続ける。「Calmest coffee shop」

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州を南北に貫く国道3号から少し入った場所にある

九州編の第64回は、熊本県熊本市にある「Calmest coffee shop」。当連載で足を運んだ店でも、多くの店主から同店の噂は耳にしていた。それは「Calmest coffee shop」がシェアロースターという焙煎機を貸し出す取り組みを行っていることが理由の一つ。さらに、コーヒーを通したチャリティーイベント「Coffee Aid」を主催していることもよく話題に上がった。
「Calmest coffee shop」は店主の深迫祐一さん、祥子さん夫妻の長男で、2019(令和元)年7月9日に不慮の事故でこの世を去った忍さんの遺志を受け継ぎ、カタチにした店。もちろん、それまでは祐一さんも祥子さんも、コーヒー業界とは無縁の暮らしをしてきた。2人が同店に込める思いとは、そしてこれからどんな未来を歩んでいこうとしているのか。

店主の深迫さん夫妻

Profile|深迫祐一(ふかさこ・ゆういち)、祥子(さちこ)
熊本県熊本市在住。自宅横にあった祥子さんのアトリエを改装し、2020(令和2)年5月7日、「Calmest coffee shop」をオープン。5月7日は故・深迫忍さんの誕生日で、生きていれば30歳を迎えた日。忍さんが生前ひそかにあたためていた「30歳になったら、故郷の熊本でカフェを開く」という夢を叶えた形だ。夫妻さんは店を営みながら「NPO法人 Coffee aid 2021」を立ち上げ、2021年から毎年7月9日にチャリティーイベント「Coffee aid」を開催。今年は東京・中野の東京セントラルパークでの開催が決まっている。

息子が叶えるはずだった夢

Paul Bassett、FUGLENでバリスタ、ロースターとして活躍した深迫忍さん

どの店にも開業してから今に至るまで物語はあるが、「Calmest coffee shop」を語る上で、故・深迫忍さんについて話さないわけにはいかない。忍さんは大学進学を機に上京し、東京・新宿にあるPaul Bassettでコーヒーの魅力に開眼。大学に通いながらPaul Bassettでアルバイトを始めたのがキャリアのスタートだ。それから本格的にバリスタとして技術・知識を高めるために、FUGLEN TOKYOへ。大学時代からのアルバイトを含めると足掛け10年にわたりコーヒー業界に身を置き、FUGLEN TOKYOではバリスタを経て、味作りの土台となる焙煎も担当していた。そんな忍さんのひそかな夢は「30歳になったら、故郷の熊本でカフェを開く」こと。その夢を母親の祥子さんは知っていた。2019(令和元)年7月9日、忍さんが勤務先の駐車場でトラックにはねられ、亡くなった時には、まさに熊本で忍さんがカフェを開く下準備を行っていたそうだ。「当時、私も東京にいて、ちょうどその時期、熊本に帰る用事があったんですね。彼に『熊本に帰るなら、カフェを開くにあたり、店を設計してくれる人を探してほしい』と頼まれていたんです」と祥子さん。まさにもうカフェ開業に向けて動き始めていた時、忍さんは29歳という若さで事故によってこの世を去ってしまった。

カウンターに立つ父親の深迫祐一さん

そのことを考えると、祐一さん、祥子さんが抱えた悲しみは筆舌に尽くしがたい。ただ2人は今、本当に優しく、穏やかな笑顔で来店する人々を出迎える。もともと公務員だったという祐一さんは「私もいつか、お客さま自身に豆を挽いてもらい、それをネルドリップで淹れて楽しんでもらう、みたいな店をやってみたいと思っていたんですよ。息子とは違い、私の場合は完全に夢物語でしたが」と笑い、祥子さんも「この歳でコーヒーショップをやるなんてまったく考えていませんでしたからね。ただ息子が私に話してくれていた『こんな店をやりたいんだ』という記憶だけを頼りに、『Calmest coffee shop』という場所を作りました」と続ける。

関わる時間の長さではなく、深さ

豆が選べるハンドドリップコーヒー(ホット450円、アイス500円)

そんな物語が流れる「Calmest coffee shop」のコーヒーのクオリティは高い。その理由の一つに忍さんの元同僚、そして同業の仲間たち、つまり東京において先端のコーヒーに精通しているバリスタ、ロースターたちが第2の実家のように同店を訪れ、コーヒーの抽出理論、焙煎のポイントを2人に伝え教えてくれたからだろう。深迫さん夫妻もまた未経験だからこそ、知識・技術を身につけるために貪欲に学んだ。それは東京の名店といわれる店で一流のバリスタ、ロースターとして認められた忍さんに対し、胸を張れるような店にしたいという思いからだ。

焙煎機のシェアも生前の忍さんが思い描いていたこと。利用料は1バッチ1300円

焙煎を担当するのは祐一さん。同店では自家焙煎も行っているが、普段熊本ではなかなか飲むことができないFUGLEN、Paul Bassettなど東京のコーヒーショップの豆も扱い、コーヒーのセレクトショップ的な役割も大切にしている。ゆえに自家焙煎はハウスブレンドのみだが、これがすごくバランスに秀でていておいしい。同店をレコメンドしてくれた Jazzy coffee の野本さんが「年数ではなく、思いの深さ」と語っていたことにも納得の味わいだ。
「Calmest coffee shop」ではゲストビーンズと銘打ち、全国各地のコーヒーショップの豆を不定期で出すこともある。祐一さんが焼いた豆ももちろんおすすめだが、普段なかなか飲むことができないロースタリーのコーヒーを選んでみるのも同店ならではの楽しみ方だ。

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